IQデータについて

シグナルアナライザ(リアルタイムスペクトラムアナライザ)MSA500シリーズでは入力信号はIQ信号に変換された後、デジタル信号処理が施されて、その結果が画面に表示される。

本稿では、IQデータについて説明する。

回路図

NCO:数値制御発振器(Numerical Controlled Oscillator)。ROMデータあるいはソフトウェアで演算されたcos(ω t)およびsin(ωt)のデータを出力する。

AD変換されたデジタル信号f(t)は実信号である。
この実信号f(t)をフーリエ変換する→周波数スペクトルF(ω)はω軸で対称となる。

図:波数スペクトルF(ω)

つまり、対称ということは片側のスペクトルだけで信号f(t)の全情報を含んでいることになる。
言い換えれば、f(t)が実信号だと情報の半分しか得られないと言える

従って、フーリエ変換では出力の正負のそれぞれが有効データである複素信号を扱う

周波数変換 と複素信号の生成

簡単な実信号の例として、\(f(t)=cosω0t\)を考える。

式:f(t)=cosω0t

正の周波数成分だけを取り出した解析信号は、実部が元の$cos$で虚部が$sin$である複素数になる。

解析信号とは、複素信号あるいは直交信号である。

下図は実信号f(t)が周波数変換されるのと同時に複素信号に変換される回路を示している。

回路図:複素信号に変換される回路

通常、複素信号同志の掛け算の場合; $$(a+jb)・(c+jd)=(ac-bd)+j(ad+bc)$$

上式が示すように、ac、bd、ad、bcの4個の掛算器が必要である。しかし、入力が実信号の場合はb=0の為、acとadの2個の掛算器で済む。これが上図である。ちなみに$a=f(t)、c=cosωt、d=sinωt$である。
上図によれば、実信号の正周波数と負周波数の成分に対し、周波数を持ち上げるように働く。負周波数の成分が正周波数成分になるように持ち上げられれば、出力信号は正周波数成分のみとなる。つまり、直信号となる。
ゆえに、振幅変化と位相変化を独立して判別することができる。つまり、フィルタもI,Q独立した設置できる。

IQ直交表示

複素信号は、実部と虚部の直交座標で表現される。 $$ \begin{cases} \text{実数軸:Iで表現。In-phase の略。} \\ \text{Qで表現。Quadratureの略。} \end{cases} $$

IQ直交表示

IQ変換の意義

IQ変換は、実信号を複素信号(直交信号、解析信号)に拡張(変換)するものである。

意義1:同じサンプル周波数でも扱える帯域幅が2倍になる。

複素信号では、正負の周波数がそれぞれ有効データのため、実信号に比べ帯域幅が2倍になる。

意義2:イメージの影響なしに中心周波数を0Hzまで移動することができる。

BPF(帯域通過フィルタ)を作成する際、LPF(低域通過フィルタ)を設計すればよい。

イメージ図:意義2

意義3:瞬時の位相φ(t)を知ることができる。

\(φ(t)=tan^-1〔Q(t)/I(t)〕\text{@横軸:時間}\)

意義4:瞬時の周波数f(t)を知ることができる。

\( \begin{align} \text{位相 }φ(t)&=ωt \\\\ &=2πf(t)t \end{align} \) 位相φ(t)を時間で微分すると、
\(dφ(t)/dt=2πf(t) \)但し、時間tに対しf(t)の変化が少ないと仮定する。
\(∴ f(t)=(1/2π)dφ(t)/dt\)
\(2π=360°$、$dφ(t)=φn-φn-1\)(φn:瞬時位相、φn-1:1つ前の位相)、dt=Ts(サンプリングレート)なので;
\(∴ f(t)=(φn-φn-1)/360Ts\)@横軸:時間

※サンプリングレートTs(1/fs) \( \begin{align} fs:&34MHz\text{@}20MHz\text{スパン} \\ &17MHz\text{@}10MHz\text{スパン} \\ ∫ \\ \end{align} \)

意義5:瞬時のパワーP(t)を知ることができる。

$$ P(t)=[I(t)^2+Q(t)^2]/50\text{@横軸:時間} $$

IQで通信の変復調を表現

以上の説明で、IQ変換すると、複素フーリエ変換ができること、および位相対時間、周波数対時間、パワー対時間などのタイムドメイン解析ができることが分かった。
それでは、通信における信号変調ではどうか。情報を符号化するために搬送波(キャリア波)である正弦波(あるいは余弦波)を下記のように変化させる。

上式をIQに変換すると; $$ \begin{cases} I&=Ac(t)・cos{2πfc(t)t+φ(t)}・cosωt \\ &=Ac(t)/2・〔cos{(ω+ωc)t+φ(t)}+cos{(ω-ωc)t-φ(t)}〕 \\ &\text{但し、}2πfc(t)=ωc \\ \\ Q&=Ac(t)・cos{2πfc(t)t+φ(t)}・sinωt \\ &=Ac(t)/2・〔sin{(ω+ωc)t+φ(t)}+sin{(ω-ωc)t-φ(t)}〕 \\ &\text{但し、}2πfc(t)=ωc \end{cases} $$

後段のLPF(低域通過フィルタ)で高城側をカットすると $$ \begin{cases} I=Ac(t)/2・cos{(ω-ωc)t-φ(t)} \\ Q=Ac(t)/2・sin{(ω-ωc)t-φ(t)} \end{cases} $$

(1)振幅変調波(AM)
\(ω=ωc、φ(t)=0\)とすると; $$ \begin{cases} I=Ac(t)/2 \\ Q=0 \end{cases} $$ $$ ∴ AM\text{信号}Ac(t)=2×I $$

(2)周波数変調波(FM)
\(Ac(t)=A\)(一定)、\(ωc=ω-Δω\)(Δω:信号波)、φ(t)=0とすると; $$ \begin{cases} I=A/2・cosΔω \\ Q=A/2・sinΔω \end{cases} $$ $$ \begin{align} tan^-1(Q/I)&=tan^{-1}(sinΔω/cosΔω) \\ &=tan^{-1}(tanΔω) \\ &=Δω(=2πΔf) \end{align} $$

∴FM信号\(Δf=(1/2π)×tan^{-1}(Q/I)\)

(3)位相変調波(PM)\(Ac(t)=A\)(一定)、\(ω=ωc\)とすると; $$ \begin{cases} I&=A/2・cosφ(t) \\ Q&=-A/2・sinφ(t) \end{cases} $$ $$ \begin{align} tan-1(Q/I)&=tan^{-1}(-sinφ(t)/cosφ(t)) \\ &=tan^{-1}(-tanφ(t)) \\ &=-φ(t) \end{align} $$

∴{PM信号}\(φ(t)=-tan^{-1}(Q/I)\)

製品ピックアップ

シグナルアナライザ MSA500

高速フーリエ変換(FFT)によるリアルタイム方式と、従来の掃引方式の2方式を搭載。両方向のそれぞれの長所を利用可能。

シグナルアナライザ MSA538

MSA500シリーズの中でもっともポピュラーなモデル
■測定周波数:20kHz~3.3GHz

シグナルアナライザ MSA538E

EMI測定機能搭載モデル
■測定周波数:20kHz~3.3GHz

シグナルアナライザ MSA538TG

トラッキングジェネレータ搭載モデル
■測定周波数:20kHz~3.3GHz

シグナルアナライザ MSA558

8.5GHz帯域により無線系情報通信のほとんどのアプリケーションをカバー
■測定周波数:20kHz~8.5GHz

シグナルアナライザ MSA558E

EMI測定機能搭載モデル
■測定周波数:20kHz~8.5GHz

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