概要

「Wi-Fi機器を開発してみたものの、実際にスループットはどの程度出ているのか?」
色んな測定手法があるが、本稿ではプログラマブルアッテネータと電波暗箱を使用して、実際にWi-Fiルーターのスループットを計測した事例を紹介する。
また、実効(最大)スループットのほか、Wi-Fi機器同士の距離が離れた場合のスループットの変化についても計測を行った。

測定に向けて

本来、スループットをより正確に測定するにはスループット測定器を使用するが、測定器は非常に高価なため、ここでは、一般に市販されているアンテナポートの有るWi-Fi子機を使用した。
次に、測定環境はどうするか?Wi-Fiの電波干渉の無い広い公園等で利用許可を取り、実際に数メートルから数100メートル離れるでも良いが、準備が大変で労力はかかり、雨天時は測定自体ができないため、ここではラボ内で実験ができるよう、電波暗箱とプログラマブルアッテネータを利用した。
プログラマブルアッテネータには、自由空間損失の計算式で算出した値をセットして距離を模擬する。電波は放射点から離れれば離れるほどエネルギーが分散し、受信点では弱くなっていく。電波の減衰する値は、送信点から受信点までの2点間距離をもとに計算で求められる。

測定方法

  1. Wi-Fiは無線接続のため、周囲の干渉波の影響を受けないよう、基準アンテナおよび被測定物(EUT:ここではWi-Fiルーター)を電波暗箱内に設置する。
  2. Wi-Fi機器同士の距離が離れたことを疑似的に再現するために、プログラマブルアッテネータ(無瞬断型の減衰器)を使用する。
  3. PCを2台使用し、iPerfを立ち上げてスループット測定を行う。

本記事で使用している主な機器

電波暗箱 MY1530

外形寸法1120(W)×705(H)×620(D)mm
内部寸法1000(W)×500(H)×500(D)mm
シールド性能70dB/2.4GHz(typ.)
電波吸収性能20dB以上/1.2GHz以上
コネクタSMA(J)×4
I/FAC,LAN,USB,D-subなど

高速プログラマブルアッテネータ MAT810

高速プログラマブルアッテネータ MAT810
周波数範囲300MHz~6.6GHz
最大減衰量60dB
減衰量設定ステップ0.05dB
特長1.アッテネータ切替時にスパイクが発生せず、通信エラーを起こさずに試験が可能
2.PC 制御により、任意の減衰シナリオを容易に作成可能

iperf(アイパーフ)とは

無線LAN(ネットワーク)のスループットを計測するためのツールです。
2台のPCをクライアントおよびサーバモードで動作させ、クライアントからサーバへ指定したトラフィックを流すことでスループットを計測することができます。

接続例1(アンテナ1本)

接続例2(アンテナ2本)

測定結果

スループット(単位 Mbps)
距離(m)
0.55103050100
2.4GHzアンテナ2本79.983.382.254.455.753.4
2.4GHz アンテナ1本56.855.856.556.545.337.2
5.2GHzアンテナ2本297.0269.0213.0166.077.632.4
5.2GHz アンテナ1本216.0215.0213.0128.032.322.6

※2.4GHzはアンテナ2本と1本とで異なるWi-Fi子機を使用しているため参考値である。
※2.4GHz帯 IEEE802.11n 20MHz幅
※5.2GHz帯 IEEE802.11ac 80MHz幅

考察

  1. 2.4GHz帯は5GHz帯と比べて波長が長いため、より遠くまで安定した速度を維持できている。
  2. Wi-Fiルーター及び子機がMIMOに対応している場合、子機側のアンテナが1本のときと2本のときで若干ながら速度差がつき、アンテナ2本の方がスループットは早くなっている。
  3. 5GHz帯は伝送容量が大きく、2.4GHz帯に比べて、スループットが3倍程度早くなっている。
  4. 5GHz帯は2.4GHz帯と比べて波長が短いため、距離が遠ざかるにつれて極端にスループットが低下している。

このように、周波数(Wi-Fi規格)による最大スループットの違い、実効スループットの距離依存の関係を評価することができた。

関連製品

電波暗箱/シールドボックス Taurusシリーズ MY1530

大きな試験物に対応した大型サイズ。 オプションでターンテーブルを装着可能。

高速プログラマブルアッテネータ MAT800シリーズ

最大減衰量80dB。超高速で減衰量を制御する事が出来る多機能な本格的プログラマブル機能。

高速プログラマブルアッテネータ MAT810

電子式で切替時のチャタリングやスパイクがなく、細かな減衰量ステップの設定により高精度な無線シミュレーションが可能。周波数範囲を16分割して補正し帯域内の周波数特性をフラットにします。

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