エレクトロニクス製品開発のコストと時間を抑制するために、EMC予備試験の重要性が増しています。マイクロニクス製MR2150は、伝導性EMIのプリコンプライアンス用試験システムです。ここではEMCプリコンプライアンス試験の重要性を示した後、コンプライアンスシステムと比較したMR2150の測定精度が実用上十分であることについて述べています。

EMCプリコンプライアンス試験の重要性

1.製品開発におけるEMCプリコンプライアンス試験の意義

エレクトロニクス製品はEMC規格に適合することが求められ、正規EMC試験サイトでのコンプライアンス試験の実施が必要とされています。しかし、サイト利用料金が安価とは言えず、また予約も取りづらい場合も少なくありません。事前に対策設計や予備試験を実施することは、サイト利用時間を短くし、開発のコストを低減するために重要です。この事前の対策設計が「フロントローディング設計」であり、また予備試験の代表例が「プリコンプライアンス試験」として知られています。製品開発の中でのそれらの位置付けを図1-1に示します。

フロントローディング設計についてはすでに多くの企業で一般的に行われていますので詳しい説明は不要と思いますが、大事な点は、設計フェーズの早い段階に計画的に工数を割くことで開発全体のコストや時間を最小化することが大きな目的です。設計修正があとの段階になるほど、手戻りのコストや時間が嵩んだり、また必ずしも効果的な修正ができなかったりするためです。

また予備試験についても、フロントローディング設計と同様の考え方が成り立ちます。つまり評価/試験フェーズでの早い段階に計画的に工数を割いて実施し、小さなループでのデバッグ作業を行うことで、出荷直前の遅い段階での負荷を抑制して開発コスト/時間を最小化することに寄与します。フロントローディング設計になぞらえて、予備試験を評価/試験フェーズでの「フロントローディング評価/試験」と理解することもできると思います。

図1-1.製品開発の中でのEMC対応
図1-1.製品開発の中でのEMC対応

2.プリコンプライアンス試験とその他のEMC評価ソリューションの比較

フロントローディングやプリコンプライアンスをキーワードとした様々なEMC評価/試験ソリューションが市場に提案され、ユーザの選択肢が増えるのはよいことですが、開発製品にとってどのソリューションが最適かの判断が難しいという一面もあるのではないでしょうか。普遍的な判断基準である「コンプライアンス試験結果との相関」をやはり重視したいとすれば、MR2150のようなプリコンプライアンス試験システムを選択することが最も合理的です。プリコンプライアンス試験システムを用いずに、例えば近傍電磁界スキャナやTEMセルによる評価のみで、正規EMCサイトとの相関が取れる場合もあるかもしれません。しかし、そのような場合には高いEMCスキルや過去の豊富な知見の蓄積があり、さらに、EMC試験結果に影響する因子をあらかじめ全て把握できていてはじめて間接的に相関が取れる場合が多いのではないでしょうか。それに対してプリコンプライアンス試験システムでは、特に高度なEMCスキルがなくとも、OKかNGかのジャッジが直接的に可能であるという点が非常に大きなメリットです。

EMC評価/試験環境の立ち上げ時は、まずMR2150のようなプリコンプライアンス試験システムを優先的に導入するのがよいと思います。その後、開発製品に適したその他のEMC評価ソリューションの導入を検討することが、ソリューション選択で失敗するリスクを低減できると考えます。

MR2150の測定制度検証

1.スペクトラム/シグナルアナライザMSAシリーズのEMI測定制度

スペクトラムアナライザのEMI測定精度を確認するひとつの簡単な方法として、CW(連続正弦波)を入力する方法があります。CW入力の場合には準ピーク値(QP)と平均値(AV)の検波レベルがピーク値(PK)と等しくなることが理想であり、コンプライアンス試験用測定器の場合にはそれらの偏差が±2dB未満であることがCISPR16-1-1で要求されています。

図2-1は、シグナルジェネレータにより150kHz(45dBμV)のCWをMSAシリーズに入力した場合の、PK値を基準としたQP値とAV値の測定偏差です。MSAシリーズの主な設定はRBW:9kHz、掃引時間:30s、及び基準レベル:80dBμVとしました。測定結果ではQP値、AV値ともにCISPR規格を満たしており、コンプライアンス試験用測定器と同等の精度が得られています。ちなみに入力した45dBμVは、高い測定精度が必要なEMIリミットライン付近のレベルです。また、MSAシリーズを含む多くのスペクトラムアナライザでは、ゼロ周波数ピークの影響により低周波帯の測定感度が若干低下する傾向があることから、ここでは最低評価周波数の150kHzという厳しい条件としました。

図2-1.MSAシリーズのEMI測定制度
図2-1.MSAシリーズのEMI測定制度

2.サンプルEUTの伝導性EMI試験

サンプルEUT(スイッチング電源ユニット)について、「MR2150(MSA558E+MPW201B)@弊社内の非シールド実験室」と、「コンプライアンスシステム@正規EMC試験サイト」のそれぞれで、伝導性EMI試験を実施しました。

  • EUT:スイッチング電源ユニット
  • 動作条件:AC230V、最大電流(電子負荷で制御)
  • EMI規格:VCCI class B(周波数範囲150kHz~30MHz)

MR2150における試験風景イメージを図2-2に、また条件を表2-1に示します。

図2-2.MR2150による試験風景(イメージ)
図2-2.MR2150による試験風景(イメージ)
表2-1.MR2150によるテスト条件
項目テスト条件
周波数範囲150kHz~30MHz
RBW9kHz
掃引時間30s(QV値、AV値)
基準レベル80dBμV
場所非シールド実験室(※)
グランドプレーン

0.63m×1.15m
(CISPR16では2m×2mを要求

EUT-LISN間距離電源ケーブルを束ねて0.8mに
(CISPR16準拠)
EUTのブランドプレーからの高さ0.4m(非伝導性テーブルを使用)
(CISPR16準拠)

※測定結果に影響するノイズがないことを十分に確認

CISPR16で要求しているサイズ2mx2mのグランドプレーンの設置スペースを弊社内実験室に確保することが難しかったため(弊社に限らず、難しいケースが多いと想像します)、ここではサイズを小さくしたグランドプレーン(0.63m×1.15m)を用いました。可能な限り規格に従うことは重要ですが、ある程度の手軽さを優先する方がプリコンプライアンス試験の目的に適っているケースも多いと考えます。

両者の試験結果を図2-3に示します。

図2-3.MR2150とコンプライアンスシステムによる試験結果の比較
図2-3.MR2150とコンプライアンスシステムによる試験結果の比較

図2-4は、最大ノイズピークのQP値及びAV値を両システムで比較した結果ですが、±3~±4dB程度の差におさまっています。EMI試験現場レベルではセッティングのわずかな違いなどによる再現性バラつきが5~6dBとも言われることがあり、MR2150は簡易的なプリコンプライアンスシステムとしては実用的な測定精度と考えられます。

図2-4.コンプライアンスシステムに対する測定誤差@最大ノイズピーク
図2-4.コンプライアンスシステムに対する測定誤差@最大ノイズピーク

図2-5は、MR2150における暗ノイズの測定結果です。一部の周波数で非定常ノイズが現れることがありましたが、EMI結果に影響を与えるようなノイズがないことは十分に確認しました。

図2-5.MR2150における暗ノイズ
図2-5.MR2150における暗ノイズ

また測定環境の違いによる影響を除くため、MR2150を正規EMC試験サイトに持ち込んでのEMI試験も実施しましたが、同サイトに設置されているコンプライアンスシステムと比較して、2.0dB以内の差でノイズピークが一致することを確認しました。

3.MR2150による適切な測定方法

図2-3のMR2150による測定では基準レベルを80dBμVとしましたが、これには理由があります。
図2-6は、基準レベルによるEMI測定結果です。

図2-6.基準レベルによるスペクトラムの変化
図2-6.基準レベルによるスペクトラムの変化

ノイズフロアを下げて測定のダイナミックレンジを広げるために、スペクトラムアナライザの基準レベルを小さくすることがあると思います。しかしながら基準レベルを小さくしすぎると、条件によってはスペクトラムアナライザの飽和現象などが原因となって、図2-6(c)の場合のようなスプリアスが発生してしまうことがあります。コンプライアンスシステムの場合には、入力に設けられたプリセレクタが不要な成分をフィルタリングすることでそのような問題を起こしにくくすることができます。基準レベルの調整やフィルタの使用などの対応策は、MR2150を適切に活用するために知っておくべきポイントです。

まとめ

伝導性EMIのプリコンプライアンス試験用システムMR2150は、製品開発におけるコストと時間を削減するために重要な役割を果たします。

コンプライアンスシステムと比較したMR2150の測定誤差は±3~±4dB程度以下であり、実用的な測定精度です。

製品ピックアップ

伝導性EMI試験システム MR2150

正規EMCサイトで行う本試験の前に本システムを使ってデバッグ評価をすることで、開発コストを大幅に削減

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