あらゆる位相変調信号を出力できる

概 要

現在、無線通信は携帯電話、地上デジタルTVはもとより、家電商品にも幅広く用いられています。
取扱いデータ量が増大するにつれ、変調方式も改良が加えられてきました。今は位相変調方式が主流となっています。

そこで、本稿では位相変調された信号をMSG703から出力する方法を説明します。

ベクトル信号発生器とは

標準信号発生器は、正弦波信号を発生させるのみですが、ベクトル信号発生器は、I,Qデータ(I:同相成分、 Q:直交位相成分)に基づいて正弦波信号を位相変調することができます。つまり、

ベクトル=IQ変調

を意味します

位相変調の基礎

変調方式には、アナログ方式のAMやFM、デジタル方式のASK(振幅シフトキーイング)やFSK(周波数シフトキーイング)があります。さらに、同じくデジタル方式のPSK(位相シフトキーイング)もあります。
この中で、最近の流行がPSKです。
PSKには、BPSK、QPSK、π/4QPSK等があります。さらに、振幅にも情報を持たせたQAMもあります。

空中を伝播する電波は、搬送波(キャリア)が1つの周波数であれば、1本の通信路となります。しかし、PSKではこの1本の通信路に複数のビットを乗せることができます。つまり、複数の通信路があると見なすことができます。
それがBPSKでは1ビット、QPSKでは2ビット、64QAMでは6ビットとなります。ビット数が増えることは、単位時間当たりの伝送量が増えることを意味します。64QAMはBPSKの6倍の伝送量となります。

用語説明

  • PSK:Phase Shift Keying、位相偏移変調
  • BPSK:Binary Phase Shift Keying、2値
  • QPSK:Quadrature Phase Shift Keying、4値
  • π/4QPSK:直交座標軸をシンボル毎に45度回転させる、4値
  • QAM:Quadrature Amplitude Modulation、直交振幅変調
  • 64QAM:64値の情報を送ることができる

IQ変調器MIQ700の説明

MSG700シリーズのオプションであるIQ変調器MIQ700について説明をします。

構成図

構成図:IQ変調器MIQ700

$$ \begin{cases} Iana、Qana:アナログIQ信号 \\ Idig、Qdig :デジタルIQ信号 \\ Iusb、Qusb :USBデータIQ信号 \\ 1ST、2ND、3RD LO:1ST、2ND、3RD ローカル発振器 \\ \end{cases} $$

入力条件

1.アナログ入力

フルスケール電圧:IQ各±600mV
入力インピーダンス:50Ω
ベースバンド帯域幅:10MHz max(RF帯域幅 20MHz max)

2.デジタル入力

IQビット数:各10ビット
IQデータ形式:2の補数
レート:80MSPS max(帯域幅 10MHz max)

3.USBデータ入力

USBメモリに書き込まれたデータで変調。

π/4QPSK変調信号の生成

ETC2.0で使われているπ/4QPSK変調信号を発生させる方法を説明します。規格は、ARIB STD-T75参照。
QPSKは[0、π/2、π、-π/2]の位相を使いますが、π/4QPSKはシンボル毎にπ/4位相をズラします。
つまり、あるシンボルが[0、π/2、π、-π/2]の位相を使うとすると、次のシンボルは[π/4、3π/4、-3π/4、-π/4]の位相を使います。
QPSKもπ/4QPSKも情報量は2ビット(4値)ですが、下図のコンスタレーションに示しますようにπ/4QPSKはデータの遷移領域で0ボルトを通りませんので出力アンプが作り易くなります。

図:QPSK、π/4QPSK

IQ変調器入力信号の生成

まず、IQ変調器MIQ700へ加えるI、Q信号を生成しなければなりません。
今回は、ETC2.0で使われているARIB STD-T75(DSRC規格)をもとにしてI、Q信号を生成する方法を説明します。
次項で説明するブロック図の回路は、FPGA(Field Programmable Gate Array)で容易に実現することができます。ここで生成されたアナログ入力の[Iana、Qana]またはデジタル入力の[Idig、Qdig]をIQ変調器MIQ700に入力することで、MSG703のRF OUTコネクタからπ/4QPSK信号を取り出すことができます。

ブロック図

ブロック図

  • TXDATA
    シリアルの生データ。4.096Mbps。
  • S/P変換
    シリアル/パラレル変換。シリアルの生データ2ビット(IとQ)が1シンボルとなります。
  • 絶対位相アドレス化テーブル
    差動符号化の演算がし易いように、位相ΔΦを3ビットの絶対位相アドレスに対応させます。
  • 差動符号化
    現在の位相と1つ前の位相を加算します。差動符号化規則はARIB STD-T75で下表のように規定されています。
IQΔΦ絶対位相アドレス
00π/4001
013π/4011
10-π/4111
11-3π/4101
  • マッピングテーブル
    位相データをI、Qの座標値に割り当てます。
位相データ位相IQ
00017F000
001π/41/√25A1/√25A
010π/200017F
0113π/4-1/√2A61/√25A
100π-180000
101-3π/4-1/√2A6-1/√2A6
110-π/2000-180
111-π/41/√25A-1/√2A6

8ビット/2の補数表示

  • FIRフィルタ
    隣接チャネルまでスペクトルが拡散しないようにベースバンド帯域制限が必要です。
    ARIB STD-T75では、下式のナイキスト特性H(f)を用いるように規定されています。

$$ \begin{eqnarray}H(f) \begin{cases} 1@ 0 \leq |f| \lt (1-α)/2T \\ \cos^{2}[(T/4α)(2π|f|-π(1-α)/T)]@(1-α)/2T\leq |f| \lt (1+α)/2T \\ 0@(1+α)/2T \leq |f| \\ \end{cases} \end{eqnarray} $$

$$ \begin{cases} ・T=1/2048(ms)(1/T=2.048 MHz)\\ ・ロールオフ率α=1.0 \\ ・H(f)の位相特性は直線であること \end{cases} $$

差動符号化の説明

差動符号化について、実際の数字を使って具体的に説明します。

差動符号化

  • [0、π/2、π、-π/2]プレーンと[π/4、3π/4、-3π/4、-π/4]プレーンがシンボル毎に交互に出現していることがわかります。
  • 絶対アドレスで演算しても、絶対位相が同じであることがわかります。

伝送速度

伝達速度

π/4QPSKの発生

接続ブロック図

接続ブロック図

バースト制御

一般に通信では、データをスロットに分割して送信します。スロットとスロットの間はキャリアオフ状態になります。つまり、バースト信号になります。一般的にはキャリアオフ時は受信状態になっています。
MSG703は、アナログ入力とデジタル入力に対してバースト制御をすることができます。
アナログ入力の場合は、正面パネルの“TRIG IN”から「キャリアオン信号」を入力します。デジタル入力の場合は、デジタル入力コネクタの1つのピン(但し、差動入力)が“CARRIER ON”に割り当てられています。

バースト制御

ASK変調信号も出力可能

IQ変調器MIG700を使って、ASK(Amplitude Shift Keying、振幅偏移変調)信号も出力することができます。

I:振幅値  Q:常にゼロ

一方、変調指数は下式で計算します。

変調指数=(Vmax-Vmin)/(Vmax+Vmin)

例えば、変調指数=80% の場合、Vmax=1 (7F)とすると、
Vmin=0.11(1C)
となります。()内の数字は8ビットデータで表した時のものです。

図

簡単な変調信号生成法

「π/4QPSK変調信号の生成」で述べたハードウェアを使わずに簡単に変調信号を生成する方法を以下に記します。
この項で述べた生成方法をPC(パソコン)上で演算することにより実現します。
PCで作成した変調データをUSBメモリにストアし、このUSBメモリをMSG703正面パネルの「USB A端子」に差し込みます。
MSG703のIQ入力信号は「USBデータ」に設定します。
キャリアオフ状態を作る場合は、USBメモリのIQデータをI=Q=0 とします。

図:簡単な変調信号生成法

※データ容量:IQ各10ビット×8,192ワード最大
読出しレート:100Hz~40MHz、100Hzステップ

製品紹介

RF信号発生器 MSG703

IQベクトル発生機能・充実した変調機能と掃引機能。

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